まずマドロス君を先陣として、一応、海をくぐって、その勝手を見届けて来るということが、彼等の第一の使命でありました。
 これらの潜水夫は、おのおのこの浜辺において名誉のものであるのみならず、どうも、この浦ではあまり見かけない、房州の南端あたりから連れて来たものであろうと思わるる海女《あま》が二人まで加わっておりました。
 これらの海人《あま》を載せて、船の沈下している海上まで運ぶべき介添船《かいぞえぶね》は、海岸に待っている。
 浜辺では、今、幾カ所も盛んに火を焚《た》いて、炎々たる焚火の前に、仁王の出来そこないのようなのが立ちはだかって、暖を取っている。
 一方には、その炎々と燃える焚火の中へ、しきりに小石を投入して焼き立てている者もある。

         五

 これより先、海鹿島《あじかじま》から伊勢路の浦へ、上陸した御用船の一行がありました。
 これも役人は役人だが、ただの役人ではない。軽装して、測量機械を携え、日の丸の旗を押立てたところを見ると、どうしてもこれは幕府の軍艦奉行の手であるらしい。
 この一行は、しかるべき組頭《くみがしら》に支配されて、都合八人ばかり、測量
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