ろん、これだけの仕事を、人目に立たないようにやるわけにはゆきません。
すでに人目を避けずにやるということになれば、浦と、港と、界隈《かいわい》の人目を、ここへ集めるの結果になるのは当前です。
何も知らぬ浦人《うらびと》は、幕府から役人が来て、天下様の御用で、この引揚工事が始まるのだとばかり思うていました。
そう思うのも無理はありません、かりそめにも、これだけの工事が、一私人の力でできるはずはないのですから。もし、有力な一私人の力でやるならば、官辺の十分なる諒解を得た後でなければ、かかれないはずです。
この点において、駒井甚三郎の準備に、抜かるところは無いか?
それがあった日には、工事半ばで、たとえ目的の機関を半分まで引揚げたところで、また陸上まで辛《かろ》うじて持ち上げたところで、官憲の手に没収されてしまうにきまっている。
獲物《えもの》を没収されるだけならいいが、今時、こんな無謀な工事をやり出す御当人その者の、身の上があぶないではないか――
駒井ほどの男が、あらかじめ、その辺の如才がないということはあるまい、ここを管轄するところの領主とか、代官とかに、相当の諒解を得た後
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