から、この滑稽の持腐れは思いきって発揮される!
浮き出す度毎《たびごと》に、その無恰好《ぶかっこう》に大きな頭の赤毛の揺れっぷり、苦しがって潮を吹く口元、きょろきょろと見廻す眼鏡の巨大なのと、その奥の眼の色の異様なのも、物それを少しも怖ろしくしないで、いよいよ滑稽なものにする。
これぞ前名のウスノロ氏――今や駒井造船所の新食客マドロス君その人であると知った時には、見る人の口が、唖然《あぜん》としてふさがらないことと思います。
これは、ジャガタラ薯《いも》のマドロス君に間違いはないのであります。
マドロス君が海の中に出没しているということは、炭焼氏が山の中を徘徊しているのと同じことに、あたりまえのことなのですが、本来、あちらの方の、洲崎の留守役に廻っていることとばかり信じきっていた人が、早くもここに先廻りをしている順序となっているのですから、知らない人は、ちょっと面食《めんくら》うかも知れない。
だが、それとても、有り得べからざることでもなんでもありません、マドロス君が先発して、こちらに来ている――駒井氏と、田山氏が、後詰《ごづめ》として、そちらへ出張して行く――と見れば不自然
前へ
次へ
全128ページ中27ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング