怒濤《どとう》の土を踏んで、経津主《ふつぬし》、武甕槌《たけみかずち》の両神がこの国に現われた。
出雲に大国主《おおくにぬし》の神を威圧し、御名方主《みなかたぬし》の神を信濃の諏訪《すわ》に追いこめ、なおこの東国の浜に群がる鬼どもを退治して、天孫降臨の素地をつくった武将のうちの神人、経津主と武甕槌。
この両神が剣《つるぎ》をぬきかざして、鹿島灘の上を驀進《ばくしん》し来《きた》る面影《おもかげ》を、ただいま見る。
なるほど、鹿島の海は経津主、武甕槌を載せるにふさわしい海だ――
この怒濤の上に立って、両神が相顧み、相指さして、一方は香取の山に登り、一方は鹿島の山に威を振うの光景を、田山白雲は、まざまざと脳裏にえがきました。
これでなければいけない、この海でなければ経津主《ふつぬし》、武甕槌《たけみかずち》を載せる海はないと思いました。
そこでまた、香取、鹿島の海で相呼応するこの神代の両英雄を、優れて大なる額面に描き、これを関東、東北の主峰にかかげてみたいとの願望が、油然《ゆうぜん》として白雲の頭の中に起ったのも、無理がありません。
この海を写し得なければ、かの両神を描き出す
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