んじ》では兆殿司《ちょうでんす》の仏画、雪村《せっそん》の達磨というのを見せてもらい、芭蕉翁の鹿島日記にても心を惹《ひ》かれ、鹿島の町、末社の数々、二の鳥居、桜門、御仮殿《おかりどの》――かくて、鹿島神宮の本殿――
しかし、鹿島は単に神宮だけでなく、裏へ廻って鹿島灘《かしまなだ》を見ることが、この行中の一つの重要なる目的でなければならぬ。
その目的を以て田山白雲は、要石《かなめいし》から潮宮《いたのみや》、高間《たかま》の原の鬼塚、末無川《すえなしがわ》のいわゆる鹿島の七不思議を見て、下津《おりつ》の浜まで来てしまいました。
ここは音に聞く鹿島灘――今、目に見て白雲の心が躍《おど》りました。
すでに安房《あわ》の海を見、上総の海、下総の海岸を経て、利根の水、霞ヶ浦の水郷に漫遊した白雲の眼には、鹿島灘の水を、同じものとは見ることができません。
ここへ来る以前に、松川が教えてくれたのだ。鹿島の海岸は処女地だ、九十九里の浜どころではない、旅行通を以て任ずるやからでも、まだ鹿島灘を見ないやつがいくらもある、よほどの変り者でなければ、あれまでは行かないのだ、また行ったところで、それだけ
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