らが警告するのか知れません。
 この時、轟然《ごうぜん》として、天地の崩れる音が起りました。
 それと共に浜辺にいた村民漁夫たちが一時に仰天して、蜘蛛《くも》の子を散らすように走り出しました。つづいて殷々《いんいん》轟々と天地の崩れる音。天地の崩れるもすさまじいが、それは海に浮んだ黒船が、大砲を打ち出したものであります。
 さすがの幼稚な石女木人のいさかいも、この音に驚かされないわけにはゆきません。
 二人はいさかいをやめて、黒煙|濛々《もうもう》たる黒船をきょとん[#「きょとん」に傍点]とながめている。

         十四

 津の宮の鳥居の下から、舟をやとうた田山白雲は、鯉のあらい、白魚の酢味噌を前に並べて、行々子《よしきり》の騒ぐのを聞き流し、水郷の中に独酌を試みている。
 船は、どこまでも流れにまかせて進むから、これは鳥居前から、十五島を横断し、十二橋をくぐって潮来《いたこ》へ出ようという目的ではないらしい。
 利根の流れをズンズンと浪逆浦《なみさかうら》へ出て、多分、鹿島の大船津《おおふなつ》を目的とするものだろうと思われる。つまり、香取の神宮へ参拝して、潮来出島はあと
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