ころ……」
「いやじゃありませんか、いつのまに、こんなものをかいたんでしょう。そっと隙見《すきみ》をして、こんなところをかいちまっていながら、知らん顔をしているんですから、ずいぶん、人の悪い白雲先生よ」
「だって、絵かきの先生だもの」
「絵かきの先生だって、お前、人が裸になっているところなんか、かかなくってもいいじゃないの……女が人に肌を見せるなんて、恥じゃありませんか」
「だッて……」
「だッて、何さ……ちゃんと、お化粧をして、着物を着かえたところならば、誰が見たって恥かしくはないけれど、行水をしているところなんかかかれちゃ、たまらないわ。こんなのを人前にさらされちゃ、わたし立つ瀬が無いわ」
「だッて……女だって、裸が恥かしいとはきまらないでしょう、布良《めら》のあまの姉さんたちをごらんなさい、いつでも裸でいるじゃありませんか」
「あれは違いますよ、あれは商売だから、海へもぐるのが商売だから、裸でいたって誰も笑やしないけれど、わたしなんぞ、商売じゃありませんもの」
「だって、風俗だから仕方がないでしょう」
「何が風俗さ……」
「先生は風俗をかいているんだから。助平《すけべい》のつもり
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