それがさ……」
「では、一緒にここへでも連れて来たのか」
「それがさ……」
いやに彼等二人はニヤニヤして、歯切れのいい返事をしない。
兵馬は、机に近い程よきところに席を占めて、
「そうして、拙者がここへ来たことを、君たちは、知ってたずねて来ましたか、或いは偶然にここへやって来たのですか」
「雪に足あとがあるものだから、こいつ狐の足跡ではない、多分、君の足あとだろうと思うから、それを伝って、とうとうこれまで入りこんだというわけさ」
とはいえ、この辺こそ雪だが、松本あたりはまだ雪ではあるまい。
しかし、いずれにしてもこの二人の来合わせたのは、偶然ではなく、兵馬の足あとをかぎつけて来たものであることは、疑いがないらしい。
とすれば、あの女はどうしたのだ。
中房からの道、兵馬のあとに追いすがって来たあの女はどうしたのだ。もと浅間の芸妓《げいしゃ》であったという女。
兵馬がもてあましたところを、二人が引受けたはいいが、兵馬は、手放してかえって持扱っている。
ここへ来たのも一つは、その行方《ゆくえ》が気になってたまらないからだ。
しかし、詰問してみると、二人はニヤニヤと笑うばかり
前へ
次へ
全157ページ中89ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング