の、いさぎよくないのを恥辱として、兵馬は、北原賢次が再度にやって来るまでに、少なくとも床を離れていなければならないと感じました。
 しかし、身を動かしてみると、意外に自分の身体《からだ》のダルさ加減の、いつもと違って甚《はなは》だしいのに驚かされ、起きて衣裳を改めてはみたが、ほとんど自分の身体が持ち切れないほどのめまいを感じましたから、じっと心を締めて、形ばかりの床の間に向って、結跏《けっか》を組みはじめました。
 ここで兵馬は衣裳を改めて、床の間を前に端坐して、この、まだるい、悪寒《おかん》の、悪熱《おねつ》の身を、正身思実《しょうじんしじつ》の姿で征服しようと企《くわだ》てたのらしい。
 しかし、寝ていてあれほど悪かったものが、起きて襟《えり》を正して端坐してみたからとて、そう急に納まるべきはずもありません。そう急になおるほどのものとすれば、誰も好んで寝ているものはないでしょう。兵馬はあらゆる緩慢悪寒の不快をこらえて、正身の座を崩しませんでしたが、五体のわなわなとふるえるのを如何《いかん》ともすることができません。
 ここで熱い湯を一杯も飲んだなら、そうでなければ冷水の一つも振舞わ
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