こっちだから、いいかげんにタカをくくっているものらしい。
 何のつもりか、外郎《ういろう》を二丁買い込んで、それを胴巻の中へ、しまおうとする途端に、店頭《みせさき》の一方から不意に、
「御用!」
 当人にとっては、お約束のような掛声で、やにわに組みついて来たのを、そこは心得たとばかり、体《たい》を沈めると、組みついた手が外《はず》れるのをキッカケに、するりとすり抜けて、表へ飛び出したのは型のような鮮かさで、それから後は得意の駈足です。
 御用の声が、二三人、透《す》かさずそのあとを追っかけて、小田原の町の朝景色を掻《か》き乱す。
 当人は心得きっているのだから、ここを逃げるのは、それこそ本当の朝飯前だ。山谷《さんや》や袋町の行詰りとは違い、四通八達の小田原城下を、小路小路まで案内知った常壇場《じょうだんば》のようなものだから、がんりき[#「がんりき」に傍点]としては、子供相手に鬼ごっこして楽しむようなものかも知れないが、大手通りの町角で、また不意に飛び出した、
「御用!」
の声に面食《めんくら》って、
「こいつは、いけねえ」
 敵に用意のあることを知ったがんりき[#「がんりき」に傍点]
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