分違いの女一人のために、名誉も、身上も、棒に振ってしまった、全く馬鹿殿様と言われても仕方があるまいではないか。それを、親方のお角が、何でこんなに身を入れて、弁護するのだかわからないが、うっかりその殿様の悪口《あっこう》をいえば、親方の御機嫌がこの通りに損《そこな》われるということだけは、この際、ハッキリと経験したから、以後は自分も慎み、朋輩《ほうばい》にも申し聞けておかねばならぬという戒慎の心だけは起ったらしい。
「そうでしょうね、やっぱり、エライ人は、エライんでござんしょうよ」
詮方《せんかた》なく感心しておくと、
「それからね、政どん」
「はい」
「わたしは、申し置いて来るのを忘れたが、あの絵の先生ね」
「ええ、田山白雲先生でございましょう」
「そうそう、あの先生に、一言おことわりをしておくのを忘れちまったから、あとからもしや間違いがなけりゃいいと気のついたことが、たった一つありますよ」
「それは何でございますか」
「もしや、がんりき[#「がんりき」に傍点]の兄さんが、留守中にやって来て、例の調子で、先生に失礼なことをしやしないか、それが、あとで心配になり出して、ことわって来れば
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