さい、どうしても歩けなければ、また方法がある、とあなたはおっしゃったじゃありませんか、行詰った時に、その方法というのを取って下さらずに、おいてけぼりはひどうござんすね」
「だから、あとから馬が迎いに行ったろう」
「どうも御親切さま。せっかくでしたけれども、あのお馬には乗るまいと、わたしは考えちまいましたのよ、あの明神様の前で死んでしまおうか知らと思いましたのよ……ですけれども、また考え直して、御親切なお馬に乗せていただいて、おめおめこれまで参りました。ほんとうに御親切なお方ね、あなたというお方は……」
兵馬は何とも答えないで、テレきっていると、ニタリニタリ笑っていた仏頂寺弥助が、傍から口を出して、
「宇津木、何とかいえよ、この御婦人が、お前を恨んでいらっしゃる」
「恨まれるほどのこともないのだ、偶然道づれになって、向うは足が遅いし、拙者の方は少し早いものだから、それで、途中、別れ別れになってしまったまでのことだ」
というと、女が少し乗り出して来て、
「そりゃ、それに違いありません、あなたがお足がおたっしゃで、わたしは生れて初めて草鞋《わらじ》というものを着けたような弱い女なんですもの
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