…」
「お相撲《すもう》さんにしても立派なもんだ。お前さん知っていなさるかどうか、この向うの檜原《ひのはら》の大岳山《おおたけざん》の麓《ふもと》に、昔おっそろしい力の強い若い衆があってね、なんでも三十人力あって、村々で人足を出し合う時には、その若いのが一人で、三十人分に通用したという話が残っていますよ。ところが、その男が、その三十人力の力が出て働けるのは、大岳山の頭が見えるところだけに限ったもので、大岳山の頭が見えなくなるところへ行くと、げっそりと力が減っちまうんだっていうことを聞きました。お前さんも三十人力はありそうだね」
「そんなにありゃしませんよ」
 物騒な犬の吠え声から、首に縄を捲かれるまでの危険千万な光景が、いい気の、秋の夜の炉辺の茶話になってしまいました。
「お前さん、生れはどこだね」
 七兵衛もこうなると、好々人《こうこうじん》の、百姓親爺のほかの何者でもありません。
「さあ、わしの生れはどこでござんすかね」
「おや、お前《めえ》さん、自分の生れどころを知らねえ……?」
 七兵衛がまた気色《けしき》ばみました。
「生れはどこだか知らねえが、赤ん坊の時からこの沢井村で育ち
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