、西北アメリカ、アラスカから、ロッキー山脈を通じてメキシコに至るその辺に散布する Grizzly Bear(半白熊)。
そのなかには千八百[#「千八百」は底本では「千百」]ポンド(二百十六貫)の体量を持ったやつがいる。
掌《たなごころ》の一撃で、野牛や、野鹿を粉砕する。
アメリカ黒熊《ブラックベーア》というのは、よくありふれたヨーロッパの Brown Bear よりは少し小さい。
ヒマラヤ黒熊というのは、特徴の一つとして胸に月毛がある。
さて、日本の熊は、このヒマラヤ黒熊の地方種といってよかろう。
そうして、この日本産の熊も、国々によって多少の相違がある。現にこの檻の中に捕われている熊は……
死んだお君から言えば、米友は確かに学者であったには相違ないが、こんなようなふうにまで科学的に見ているわけでもないでしょう。
そうかといって、眼は熊に向いつつも、心はよそに、二大政党の勢力が伯仲《はくちゅう》の間《かん》にあって、将来の政局がどう安定するか、というようなことをも考えている男ではありません。
一万円の自動車を飛ばし、金にあかして多数の犬を弄《もてあそ》んだという金持の文士が、民衆を標榜《ひょうぼう》して打って出でると、それに五千の投票が集まるという、甘辛せんべいみたような帝都の人気を、苦笑しているわけでもないのであります。
宇治山田の米友が、こうも一心に熊に打込んでみとれているというのは、この熊を見て、はしなくも、ムク犬のことを思い出したからであります。
米友は、熊を見ているうちに、ムクのことを思い出して、たまらなくなりました。
ムクはいい犬だったなあ――ムクは可愛ゆい奴だなあ――ムクは……
やや暫くした瞬間に、ハッと気がついて、例の責任感がこみ上げて来ると矢も楯《たて》も堪らず、土産物屋《みやげものや》の熊胆《くまのい》をかっぱらうようにさらって、走り出しました。
そこで宇治山田の米友が、木曾の福島の町をまっしぐらに飛び出しました。
碓氷峠《うすいとうげ》の時も、うっかり風車にもたれて東の国を顧望していた時に、道庵先生を見失い、ついに軽井沢の大活劇を演じて、辛《かろ》うじて、道庵先生の命を九毛の危《あや》うきに救い出しました。また松本の浅間の湯では、祭礼の群集の中へ先生を埋没させてしまって、それを救うのに、天狗夜遊《てんぐやゆう》の秘
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