農、清宮米吉のことであります。
 この平民宗教の開祖は、馬をひっぱって歩きながら、途中で御祓《おはら》いをたのまれると、これと同じように、いちいち荷物を積み卸しの二重の手間をいとわず、馬をいたわって、しかして後に御祓いにかかったものであります。
 この人は、また言う、
「おれは朝暗いうちから江戸へ馬をひいて通《かよ》ったが、ただの一ぺんでも馬に乗ったことはないよ」
 いやしくも、一教を開く者にはこの誠心《まごころ》がなければならない。与八のは、必ずしもその形だけを学んだものとは思われません。
 それから、また一つ不思議なことは、木を植えても、農作物を作っても、与八がすると、極めてよく育つことであります。
 同じように種をまいて、同じように世話をして、それで与八のが特別によく育って、よく実るのが不思議でありました。
 ある時、老農がこの話を聞いて、与八の仕事ぶりを、わざわざその畑まで見に来て、
「なるほど、まるで岡山の金光様《こんこうさま》みたようだ」
といいました。
 この老農は、どこで金光様の話を聞いて来たか知らないが、与八の仕事ぶりを見て、そこに共通する何物をか認めたと見え、
「作
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