も食べてごらんよ、お団子ばかり食べないでさ……」
「いけねえやい、今度は、おいらのあげたてんぷら[#「てんぷら」に傍点]を食うんだぞ、てんぷらを――」
「静かにしろよ、与八さんの好きなのから先に食べさせるんだといってるじゃねえか」
「与八さん、モットお団子をお食べ。まだ三串あるよ……」
「与八さん、お団子を食べてしまったら、あたいのお強飯《こわ》を食べて頂戴な……」
 ふところから、破れてハミ出した赤飯の紙包を持ち出したのは、五ツ六ツになるお河童《かっぱ》さんの女の子であります。
「いけねえやい」
 十二三の悪太郎が、無惨《むざん》にも、そのお河童さんを一喝《いっかつ》して、
「いけねえよ……おめえのお強飯《こわ》は食べ残しなんだろう、自分の食べ残しを、人に食べさせるなんてことがあるかい、人にあげるには、ちゃんとお初穂《はつほ》をあげるもんだよ、お初穂を――食べ残しを与八さんに食べさせようなんたって、そうはいかねえ……」
 悪太郎から一喝を食って、無惨にもお河童さんは泣き出しそうになると、同じ年頃の善太郎が、それをかばって言うことには、
「いいんだよ、与八さんは、残り物でもなんでも悪い
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