す。
「あ、与八さん、動いちゃいけないよ」
と言ったけれども、生きているものを、いつまでも動かせないでおくということは無理である、圧制である、ということが、さすがに子供らにも気兼ねをさせたと見えて、
「与八さん、窮屈だろう、もう少し辛抱しておいで、ね……」
しおらしくも、慰めの言葉を以て、その労をねぎらおうとする者もある。
見物人は――見物のうちの大人です――皆、その事の体《てい》を見て失笑しないものはないが、なかには見兼ねて、
「みんな、いいかげんにしな、与八さんだって苦しいよ」
そこで、この恬然子《てんぜんし》は解放されることになりました。
その時分、ちょうど、河原で花火が揚り出したものですから、子供らは、与八の周囲に積んだ石を取払い、今まで下積みにしたお礼心でもあるまいが、大勢して、与八を胴上げにして河原まで連れて行って上げようと言い出し、与八の身体《からだ》につかまって、それを持ち上げようとしたけれど、彼等の力では、どうしても与八を担《かつ》ぎ上げることが不可能だとあきらめたものと見え、ワッショワッショと与八のずうたいを後ろから、ひた押しに押して、河原の方へ押し出して行
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