かい》らしいものが、振りまいたように散乱しておりました。
田山白雲は、物珍しそうに、わざわざひざまずいて、その子供のこぶしほどの大きさな根塊を、一つ拾い取って打ちながめ、
「何だろう?」
会話の興味を中断して、白雲はその根塊の吟味にとりかかる。
見慣れない小さなグロテスク、それも一つや二つならばとにかく、砂浜のかなりの面積の間に振りまかれたように、ほとんど無数に散乱しているものですから、白雲も、特に注意をひかれたようで、特に手にとって熟覧してみたけれども、その何物であるかは鑑定に苦しむ。ただ、ぬかごの形をして大きく、さつまいもに似てぶかっこうな、一種の植物の根塊であることだけは疑いないらしい。
白雲は腰をかがめたままで、その根塊の一つ二つを拾い、しさいに打ちながめていると、駒井甚三郎は、立ちながら白雲の手元をのぞき込み、
「これはジャガタラいも[#「いも」に傍点]ですよ」
「え、ジャガタラいも[#「いも」に傍点]……?」
「そうです」
田山白雲はまだジャガタラいも[#「いも」に傍点]を知らなかったが、駒井甚三郎はよくそれを知っている。
ただ駒井がいぶかしげにそのジャガタラいも[#「いも」に傍点]を眺めていたのは、ジャガタラいも[#「いも」に傍点]そのものが珍しいのではなく、この辺では、まだこれを栽培していないはずなのに、こうも多数に海岸に散乱しているのはなにゆえだろう。
駒井にとっては、それが合点《がてん》がゆかないので、同時に、これは難破船でもあったのではないか、という疑いも起り、難破船とすれば、それはこの近海に近づいた外国船であろうということまでが念頭にのぼってくるので、かなり遠くまで考えながら立っているのでありました。
田山白雲は、そんなことは頓着なしに、ただ単純に、その根塊を珍しがって、
「ははあ、これが音に聞くジャガタラいも[#「いも」に傍点]ですか?」
「関東で清太いも[#「いも」に傍点]というのがこれです、ところによって甲州いも[#「いも」に傍点]だの、朝鮮いも[#「いも」に傍点]だのといって、上州あたりでもかなり作っているはずですが……」
「いや、拙者は、はじめてお目にかかりましたよ、うまいですか……?」
田山白雲は、そのうまそうな一つをヒネクり廻すと、駒井が説明して、
「うまいというものじゃないが、滋養に富んでいて常食にもなります
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