いようとする。
 その時、舞台の上なる仏頂寺弥助は、組敷かれた弁慶の兜巾《ときん》に手をかけて、
「団十郎とか、海老蔵とかいう名前は、芝居の方では太政大臣《だじょうだいじん》だ、その人を得ざれば、その位を明けておくのが、その道の者の礼儀ではないか。形式に囚《とら》われて、偶像を拝むように拝めというわけではない、貴様のような身の程知らずが、盲目《めくら》千人の世間をばかにしたつもりでいるのは、芝居道を害するのみならず、世間の礼儀と、秩序というものを紊《みだ》る憂《うれ》いがあるから、貴様たちのような木《こ》ッ葉《ぱ》を相手にするのは大人げないと知りながら、こうして折檻《せっかん》にあがったのだ、以後は慎め」
と言いながら仏頂寺は、弁慶の兜巾を※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12]《むし》り取り、鈴懸《すずかけ》、衣、袴まで※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12]り取ろうとする有様は、この弁慶の身体には危害を加えないが、身の皮を剥いで懲らしめるの手段と見えました。
 他の二人の壮士は、それを擁護して、もしや仏頂寺のなすことに手出しをする者があらば、いちいち取りひしいでくれようと肩を怒らしている権幕の物凄《ものすご》さに、これは力ずくではいけないと思って、一座の頭取、狂言方、番頭の類《たぐい》の非戦闘員が総出で、仏頂寺の前に平身低頭して来ました。
 何といって、謝罪《あやま》っているのだか聞えないが、彼等が百方謝罪をしているのを仏頂寺は耳にも入れず、メリメリと弁慶の衣裳剥ぎをやっている。
 道庵先生が立ち上ったのはこの時であります。
 今まで鳴りを鎮めて事の体《てい》を見ていた道庵先生が、ここは己《おの》れの出る幕だと思いました。ここいらでおれが出なければ、納まりがつくまいと思いました。
「友様……事を好むわけではねえが、見たところみんな口の利《き》きようを知らねえ人様ばっかりだ、ここでひとつ拙者が、時の氏神と出かけねえければ納まりがつくめえ。だが、こういう氏神はまかり間違えば頭の鉢を割られる。そこでお前……そのまかり間違った時は骨を拾ってくんなよ。どれ、水杯《みずさかずき》を一つやらかして……」
 道庵は一杯グッと飲んでからに、袴《はかま》の塵を打払って、
「御免よ」
といって人立ちを分けて舞台の方へ進み出しましたから、米友もじっとしてはおられず、それにつ
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