胸に抱いているものをあや[#「あや」に傍点]なすようにして、
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ねんねがお守《もり》は
どこへいた
南条|長田《おさだ》へとと買いに
そのとと買うて
何するの
ねんねに上げよと
買うて来た
ねんねんねんねん
ねんねんよ
[#ここで字下げ終わり]
そうすると、女が歌の半ばにほろほろと泣き出してしまいました。
田山白雲は胸を打たれて気の毒なものだと思いました。この年で、この容貌《きりょう》で、そしてこの病。
これが岡本兵部の娘なのか。
娘は泣きながら両袖を合わせて、抱えたものをいよいよ大事にし、
「ねえ、あなた、茂太郎はどこへ行きましたろう……鋸山の上にもいませんでしたわ」
「そのうち帰るでしょう」
「そうか知ら、帰るかしら、いつまで待ったら帰るでしょう」
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ねんねんねんねん
ねんねんよ
ねんねのお守は
どこへいた
お山を越えて
里越えて
そうしてお家へ
いつ帰るの……
[#ここで字下げ終わり]
女は蝋涙《ろうるい》のような涙を袖でふいて、
「ねえ、あなた、この子の面《かお》が茂太郎によく似ているでしょう、そっくり[#「そっくり」に傍点
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