、ころげるほど笑いましたが、今もそれを思い出すと、ひとりおかしくなって、おかしくなって、ことに嘉七の額が少しおでこだものですから、額で受けらあという言葉が一層|利《き》いたので、今も湯槽《ゆぶね》の中でその思出し笑いが止まらないのです。

         三十三

 さてまた弁信法師は一面の琵琶を負うて、またもうらぶれ[#「うらぶれ」に傍点]の旅に出でました。
 ここは峡中《こうちゅう》の平原、遠く白根の山の雪を冠《かぶ》って雪に揺曳《ようえい》するところ。亭々たる松の木の下に立って杖をとどめて、悵然《ちょうぜん》として行く末とこし方をながめて立ち、
「茂ちゃん、お前のいるところはわたしには、ちゃんとわかっているようで、それで、どうしても逢えないの。今も、わたしのこの耳に、お前が、わたしに逢いたがっているその声が、ようく聞えるんですけれども、わたしにはお前のいるところがわからない」
 弁信は松の梢《こずえ》の上を仰いでこういいました。これはこの法師にとっては珍しいことではありません。いつでも、人なきところに人を置き、声なきに声を聞いては、それを有るものの如く応対するのが、このお饒舌《
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