決がついていないところへ……見せられたこの刀が、激しい暗示を与える。
「誰がこの刀を持っていましたか?」
「それは、わたくしから、あなたにたずねているのです」
「いや、私にはわかりませぬ、あなたにお尋ねしなければなりません。あなたはこの刀の持主を尋ねて、この寺へおいでになったのですか、その人は、何という人で、何のためにこちらへ来たのですか」
「それは人を殺すことを何とも思わない人です……ですけれども、わたしはその人が忘れられないのです」
「あなたのおっしゃることがよくわかりませぬ」
「それでは、もう一つ付け加えましょう、その人は目の見えない人です……どういう縁故でこの寺へ参りましたかは存じませぬが、今はこの寺にはいませんそうで……温泉へ行ってしまったそうです」
「まだわかりませぬ、もう少しお聞かせ下さいまし」
 話が、それから進むと、お銀様は、ついに兵馬に向って、
「机竜之助」
の名を語らねばならなくなりました。そうでなくてさえ一語一語に、何かの暗示を強《し》いられていた兵馬は、最後に「机竜之助」の名を聞いて、ながめていた白刃を伝って、強烈な電気に打たれたように振い立ちました。
「あ、
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