が嬉しくなって、世間が晴々しくなって、この足が自分ながら躍《おど》り立つように軽くなりましてな、山坂を上ることも、下ることも、寒さも風も苦にはなりませんわい。こうして小屋へ帰って、焚火の光を見ますと、火の光がまた、なんともいえない陽気なもので、嬉しくなります、は、は、は……」
神主は嬉しくてたまらないように、しきりに喜んでいたが、ふと浅吉の顔を見て、
「若衆《わかいしゅ》さん、お前さん、また何か鬱《ふさ》ぎ込んでいますな、いけません、一人鬱いでいると、室内がみんな陰気になりますから、おやめなさい、人間、陰気ということがいちばんいけないのですて……人は陽気がゆるむと、陰気が強くなります。陰気というのは、つまりけがれのことで、けがれは、つまり気を枯らす気枯《けが》れということでござってな、お天道様の御陽光が消えると、けがれが起るのじゃ。お前さん、陰気だ、陰気だ、これはいけない、いけない、陽気にならっしゃい、ちと外へ出て御陽光を吸っておいでなさい……お前さんがいるために、この小屋の内までが変に陰気くさくなっていましたわい、ドリャお祓《はら》いをして進ぜよう」
と言って元気に老神主は立って、
前へ
次へ
全322ページ中295ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング