拐《かどわか》されたんだよ、連れて行ったのは、さきほどお寺を見に来た旅の大工だといったあの人に違いない、それだから茂ちゃんが隠れたのだ、わたしも訝《おか》しいとは思いました、訝しいとは思ったけれど、まさか……と油断していたのが過《あやま》ちでした」
弁信は、なお暫くの間、そこに立ったままです。
一時は気がつくと、ハッとして狂気のように驚いたけれども、その驚いた間にも、提灯をつけて飛び出したほどの弁信です。なぜならば、盲目《めくら》であり、勘のよいことにおいて倫《りん》を絶《ぜっ》している弁信自身が、提灯をつけなければ夜歩きのできないはずはないのです。それを、その際《きわ》どい場合にも、寺の名の入った提灯をつけて、そうして飛び出したほどの弁信ですから、いかなる感情の切迫の際でも、理性は冷静に働いているのです。冷静に働く理性と、判断力と、記憶力と、それに倫を絶した勘という直覚力が加わると、他に向ってあせることの愚なのを考えて、自らの能力に訴えることの有利なるを悟らないわけにはゆきません。
弁信は、宮の台の原のまんなかに立って考えました。時々、その法然頭《ほうねんあたま》を左右に振りな
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