。
この野郎、先刻は未練気もなく月見寺を出て行ったはずなのに、まだこんなところにひっかかっているところを見ると、何か思いきれないものが残っているのかも知れない。
「おれという野郎も、わからねえ野郎じゃねえか」
といって柄《がら》にもなく頬杖をついて、いささか悄気《しょげ》て見えるのは、近頃はどうも思うようにがんりき[#「がんりき」に傍点]の眼が出ないで、あっちへ行っては鼻を明《あ》かされ、こっちへ来てはヌカヨロ[#「ヌカヨロ」に傍点]をつかませられ、これも思いきれないで、血眼《ちまなこ》で東西南北を駈けめぐって、なにほどかモノにしようと焦《あせ》っているのが、兄貴の七兵衛の物笑いの種となるばかりでなく、御当人も、少しは気がさしたものらしい。
「さて今晩のところは……」
といって頬杖を外《はず》し、身を起しかけたのは、今晩これからの塒《ねぐら》の心配でしょう。
「うっかりドジを踏んで、粂《くめ》の親分にでも見つかろうものなら……事だ」
百蔵は真黒な犬目山《いぬめやま》の方を横目に睨《にら》んで見たのは、この男にとっては、この郡内は最も危険区域であり、ことに鳥沢の粂《くめ》という親分に
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