セラル」
「弁信さん、これが歌なの、論語じゃないの」
茂太郎が、少しく不平の色を現わしました。
「だまって覚えておいでなさい、あとでわけを話して上げますから」
そこで二人は、黄昏《たそがれ》の縁に腰うちかけて、白楽天の譲り渡しを試みていますと、門をスタスタと入って来る人がありましたから、めざとくそれを見つけた茂太郎が、
「あ、いやな奴……」
というが早いか、身をおどらして、縁の下へ隠れてしまいました。
「誰が来たの」
弁信が徒《いたず》らに見えない目を動かしているところへ入って来た旅の人が、
「御免下さいまし」
「どなたですか」
「はい、ええ、通りがかりの者でございますが……」
見ればキリリ[#「キリリ」に傍点]として甲掛《こうがけ》脚絆《きゃはん》の旅の人。口の利《き》き方も道中慣れがしていると見えて、ハキハキしたものです。
「はい」
「つかぬことを承《うけたまわ》るようでございますが……手前は大工が商売でございまして」
「あ、大工さんですか」
「はい、渡り大工といったようなものでございますが、承れば」
承ればを二度ほど重ねたことほど切口上《きりこうじょう》で、弁信の傍へソ
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