って、川の流れを見下ろしました。
 橋の袂《たもと》で逢った夫婦連れの巡礼。お松はその姿をなつかしくながめて、
「どちらからおいでになりました」
「上方《かみがた》から大菩薩越えをして参りました」
「大菩薩峠の上は、もう雪でしょうね」
「いいえ、まだ雪はございませんでしたが、ずいぶん寒うございました」
「紅葉《もみじ》はどうでした」
「麓《ふもと》がこんなにあかいくらいですから、峠の上はもう冬でございます」
「そうですか、お大切《だいじ》に」
 それだけの問答で別れる。
 海抜六千尺の峠の頂《いただき》に、吹雪よりも怖いものはいなかったか、それまではきかず。
 向うの村へ渡って、改めて沢井を見渡すと、山巒《さんらん》の中腹に塀をめぐらした机の家は、さながら城廓のように見える。
 お松は秋の情景をほしいままにして、山と畑との勾配《こうばい》ゆるやかな道を歩みました。
 と見れば、道ばたの芝の上に置かれた剣術の道具一組。袋に入れた竹刀《しない》につらぬかれたまま置捨てられて、人は見えない。
 あちらの畑の中の柿の木の上で声がする。
「新ちゃん、沢井の道場がこのごろ開けたってなあ」
「そうか
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