ことに自分から約束を出しておいたはず。そこで、先生が、あわてて口を押えたのですけれど、この人たちは気がつきません。そこで先生も、やや安心して、若い劇作家連に向ってひきつづき熊谷の物語をはじめました、
「法然様も、これには驚いてね、法名が欲しければいくらでもしかるべきものを上げよう、なにも熊谷が蓮生《れんしょう》とつけたから、お前もそれと同じ名前でなければいけぬという理由はない、第一、それではまぎれ易《やす》くて、名前をつける意味をなさない……と法然様がねんごろに諭《さと》されたけれども、宇都宮の弥三郎はいっかなきかない、ぜひ熊谷と同じ名前を貰って行かなければ、あいつの前へ幅が利《き》かないという理窟で、法然様もあきれ返り、よしよしと同じ蓮生の名を授けてくれたものだから、宇都宮の弥三郎様が、鬼の首でも取ったつもりで、大喜びで東国へはせ返り、熊谷様の前で溜飲を下げたものだ……それからこっち、本家の方がレンセイ、新家《しんや》がレンショウとこうなったんだ。ここいらが昔の武人のいいところで、今時のヘラヘラ役者が、海老蔵を名乗りたがるとはわけがちがう」
「そういうわけでしたか」
「それからまた或
前へ 次へ
全322ページ中184ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング