うと思います」
白雲の取り出した小さな本は、今度のは絵ではありません。よき根気を以て書いた細字の、数百枚をとじた小本でありました。
「幸いに、拙者を泊めてくれた居士は、まだ世間に流布《るふ》されていない秘本をずいぶん持っていましたからね……『日蓮ハ日本国東夷東条安房ノ国海辺ノ旃陀羅《せんだら》ガ子ナリ!』これは佐渡御勘気鈔《さどごかんきしょう》という本のうちにあるのです。『イカニ況《いはん》ヤ、日蓮|今生《こんじやう》ニハ貧窮下賤《ひんぐうげせん》ノ者ト生レ旃陀羅ガ家ヨリ出タリ。心コソ少シ法華経ヲ信ジタル様ナレドモ、身ハ人身ニ似テ畜身ナリ……』と、これが日蓮自身の名乗りなのです。この名乗りを真向《まっこう》にかざして、一世を敵にして戦いをいどみました。日本という国は、幸か不幸か系図を貴ぶ国柄で、たとえば征夷大将軍になるには、どうしても源氏の系統をこしらえなければならず、たまたま土民の中、乞丐《きっかい》の間から木下藤吉郎のような大物が生れ出でても、その系図の粉飾には苦心惨憺したものです。人間をかざるものが主となって、人間そのものが従になるのです。ですから後光《ごこう》と肩書があって初
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