他生流転《たしょうるてん》の響きに変りますね、汐入《しおいり》の浜では、歴劫不思議《りゃくごうふしぎ》が聞え、妙《たえ》の浦《うら》では南無妙法蓮華経が響きます、そのつもりで波の音を聞きわけてごらんなさい……こういわれましたから、私はナーニとその時は思いましたね、波の音にまで、そんな線香くさい響きがするものかと、その時は頭からばかにしてかかると、その居士《こじ》がいいましたよ、田山さん、あなたは水が生きている、波が七情をほしいままにしているといったではありませんか、生きているものの音《おん》に七情の現われはありませんか?……と、こういわれて私はハッと気がつきました。それお聞きなさい、大海の波の音が、今、諸法実相を教えていますといわれたとき、ゾッとしたのです」
田山白雲は、大《だい》の身体《からだ》をゆすぶって、その目から涙をこぼして、拳をわななかせました。
田山白雲は暫くして、昂奮から醒《さ》めたように冷静になって、
「日蓮の遺文集を読み出したのは、小湊滞在中の記念です。私はその十日の間に、日蓮の遺文全部を読みました。片田舎の子供が初めて海を見て、水が生きてる! といったように
前へ
次へ
全322ページ中160ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング