思い当ったのは、もしや、あの塩尻峠の時の侍たちがあとを慕って仕返しに来たのではあるまいか。
 そう思って見ると、今し、山道を下って入り込んでくる四五名の人数が、お雪にとっては容易ならぬ脅威のように思われてなりません。そこでなんとなく胸が落着かないで、振返り振返り、茶堂橋を渡ると、右の人たちの姿も、木の間に隠れてしまいました。
 ほどなく、その山かげから歌をうたう声が起りました。遠く響いて来る歌の声は聞えるが、それが何の歌であるかわかりません。ちょっと耳を傾けていたお雪は、ややあって、ああ詩を吟じているのだとさとりました。
 してみれば、これは侍だ。農工商、或いは山方《やまかた》へ出入りの木樵《きこり》炭焼《すみやき》で、詩を吟じて歩くようなものはないはず。
 侍ならば、まさしく塩尻峠の連中があとを慕うて来たのだ。どうしよう、あの人たちの立退くまで、わたしたちは隠れていなければならない。一日や二日ならば隠れおおせるが、もしあれがわたしたち同様に、冬籠《ふゆごも》りをするつもりで来たとすればどうしよう、ほとんど逃れる道はない――
 お雪は、一緒につれた浅吉の身の上よりは、自分たちの近い将来
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