明日。そこで、広くもあらぬこの炭焼小屋に枕を並べて、一夜を明かすことになりました。勘八は早くも高鼾《たかいびき》、兵馬もやがて眠りにつき、お銀様もうとうととして夢路に入りましたが、肉体は疲労によってあくまで休息を求めるのに、神経は夜来の刺戟によって、盛んに躍動をつづけようとする。こういう時には、誰しも見まいとして見るのが怖ろしい夢です。
お銀様は怖ろしい夢にうなされました。その夢とても、過去の現実を離れた夢ではなく、過去の最も怖ろしかった記憶が、ほとんどそのままに再現されたままです。
その怖ろしかった記憶は、躑躅《つつじ》ヶ崎《さき》の古屋敷で、酒乱の神尾主膳に脅迫《きょうはく》された時、伯耆《ほうき》の安綱《やすつな》の名刀を抜いて迫り来《きた》る神尾主膳、それを逃れて走り下りた二階の階段、そこには善悪邪正いずれとも判別しかねる人がいた。
理も非もなくその人に縋《すが》りついて助けを求めた時、その鉄壁のような冷たさと、吸盤のような引力に吸い込まれて、その夜、ついに怪しい二つの蝶の夢を見て、夜が明けた時は、肌がすっかりと汗ばんで、髪がべっとり[#「べっとり」に傍点]と濡れていまし
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