しく頼みますぞ」
「畏《かしこ》まりました、早速、そのつもりで明日からでも、恰好《かっこう》なところを探しにかかりましょう。それと、お大尽様、くどいようでございますが、あなた様にもぜひひとつ、今度の興行を見ていただきとうございます」
「いいや、わしがような山家者《やまがもの》、それにこう頭が古くなっては、根っから新しいものを見て楽しもうと思いませぬ」
「それでも、せっかくでございますから」
「まあ、勘弁して下さい、これが、わしの性分なのだから」
「ほんとうに残念でございます」
 肝腎《かんじん》の金主元が、事業の出来栄えを見てくれないのをお角は残念がると、伊太夫は、
「そういうわけだから、悪く取って下さるな。それから、この金は、せっかくのこと故、わしが一旦は受納を致したことにして、改めてお前さんの方へお廻しをしたいのじゃ、この後の分ともに、それを、今お頼みした娘の方のかかりに廻してもらいたいのじゃ。娘へ手渡しをしても受取るまい、受取ったところでうまく処分ができ兼ねるだろうから、そこはお前さんが預かっておいて、都合よくやってもらいたいのじゃ。なお、国許《くにもと》から月々なり、或いは相当
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