ました。そこで、与八のいるうちに出立の用意をととのえて、馬や駕籠《かご》も頼み、当分の間、乳母《ばあや》も附いて行ってくれるとのことだから、なお安心して、すべては非常に調子よく捗《はかど》ってしまいました。
 そこで、この連中は、打揃って、程遠からぬ回向院《えこういん》の境内《けいだい》に、お君の墓参りをして行こうと、花と香とを携えて、門を出ようとする時に、どこからともなくムク犬が現われました。
「ムクや」
 それ以来、ムク犬は使命を果して、房州から帰ったには帰ったが、人に姿を見せることが極めて稀れで、必要に応じてはどこから出るともなく出て来て、必要に応ぜざればどこに隠れているともなく、隠れていて出て来ない。
 今、この人たちがうちつれて旧主の墓参りに出かけようとする時に、ヒョッコリ姿を現わしたので、一同の者がこの犬の出現を、いたくよろこび迎えました。
 しかし、当の犬は、喜べる色もなく、勇める風もなく、一行の中にまじって、その行くところへ共に行き、その止まるところへ共に止まろうとする、柔順な態度に見ゆる。
 ムク犬のこのごろは、我と我が生存の意義を見出そうとしているげに見ゆる。わが使
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