ようですとつまり[#「つまり」に傍点]ませんから、いつまでもこっちにいましょうね。どちらに致します」
といって、お松は登の顔にほおずり[#「ほおずり」に傍点]をしました。どちらに致すも致さないもありはしない、生れてまだ幾月もたたない子。思案に余ったことがあるものですから、お松はしきりに、このおさな[#「おさな」に傍点]児に話しかけているのです。
「それは御老女様はえらいお方だし、このお屋敷は結構なお屋敷ですけれども、なんだか世間が騒がしいものですから、あなたや、わたしは暫くあっちへ行っていた方がいいかも知れない」
お松の心を、ドチラにかきめてしまわねばならぬ時節がまもなく来ました。
それはいよいよこの本所の相生町の老女の屋敷を引払わねばならぬ時が来たからです。噂《うわさ》によると、土佐の乾退助《いぬいたいすけ》という人が来て、ここに集まる浪士にすすめて、四国町の薩摩屋敷へ併合せしめたということです。
そうして、お松が主としてつかえた老女は、本国へ帰る途中、ひとまず京都に滞留するのだということです。
老女はどこまでもお気に入りのお松を手放したくはありませんでしたけれど、お松として
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