なんだかばかばかしくもあり、いやな気にもなって、木剣を抛《ほう》り出し、そのまま頭をかかえて横になるとまもなく、軽いいびき[#「いびき」に傍点]で寝入ってしまいましたが、ずん[#「ずん」に傍点]と大きく、人間と同じほどに伸びた鼠の面《かお》だけが、夢の中に残って、夜もすがらおびえた[#「おびえた」に傍点]そうです。

         二十六

 その夜は、それだけで無事に明け、翌日、右のさむらい[#「さむらい」に傍点]は、御岳山へのぼるといって立去りました。
 与八が、急に江戸へ出かけたくなったのもその時で、それは今になって、お松の先日いった言葉をつくづく思い出したからです。お松さんのいうのには、あのお屋敷では御老女様に大へん可愛がられているが、本来、あの屋敷というのが、国々の壮士浪人の集まりで、いつ解散されるのだかわからない。もしや御老女様が遠方の国許《くにもと》へでもお帰りになってしまったあとは……と、それとなく身の行末に多少の不安を述べたのを、与八は耳にハサんでは来ましたが、もともと鈍感な男のことですから、今頃になって漸くそれを痛切に思い出し、わけを話して、こっちへ来て下さいと
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