傍から植えたことを忘れてしまって、育てることだけは忘れない。
木を育てることの好きな与八は、また人の子供を育てることが大好きです。郁太郎《いくたろう》を育ててみると、その苦しみのうちに、いうにいわれぬ楽しみがあって、子供というものはほんとうに可愛いものだと身に沁《し》みています。与八が、ほんとうに子供を可愛がるものですから、子供たちもまた、与八に懐《なつ》くことは大変なもので、いつも、与八の仕事をする周囲には、五人十人の子供が集まっていないということはありません。
郁太郎も、今では乳《ち》ばなれもしたし、人に預けなくても、遊びに来る子供が守《もり》をしてくれるから、自分の仕事もよく手が廻ります。仕事の合間、与八は海蔵寺の東妙和尚について、和讃《わさん》だの、経文《きょうもん》の初歩だのというものを教わります。それと共に、東妙和尚の手ずさみ[#「ずさみ」に傍点]をみよう見真似《みまね》で彫刻をはじめました。そこで、与八は学問の初歩と、美術の初歩というものにようやく興味を覚えてきました。
この興味は、与八をして教育の世界に、一つの驚異を見出させたようです。自ら教ゆる間のみが人を教ゆる
前へ
次へ
全288ページ中256ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング