井能登守!」
駒井は眼をつぶって、沈黙してしまいました。米友は、唇がわなないて口が利《き》けません。
なんとも手のつけようのないのは、卒塔婆小町の婆さんで、なぜ、この品位ある若殿原《わかとのばら》が、寺男の米友風情に、こうまで罵られて言句がつげないのか、また、日頃、親切で正直な男が、まるで狂犬《やまいぬ》みたように、どうして一見の人にガミガミ噛みつくのだか、委細の様子がわかりません。
暫くあって駒井甚三郎は、沈黙をやむなくさせられた口を開いて、
「それでは、友造、わしは、どうすればいいのだ」
「死んだものを活《い》かして返せ!」
と宇治山田の米友が叫びました。これは無理です。本来米友という男は、無理をいわない男であるし、自分が無理をいわないのみならず、他の無理に対しても我儘《わがまま》ということのできない男であります。しかるに、今は、駒井能登守に対して、無茶苦茶な無理をいいかけています。死んだ者を活かして返せとは、人間として、これより以上の無理な註文はないはずであります。駒井甚三郎が、いま失意の境遇にあるよわみをつけ込んで、こういう無理をいいかけるのか知らん。そうではないはずです
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