えない足どりで、それでも迷わんとして迷わず、さして行くところは、いのじ[#「いのじ」に傍点]ヶ原の一軒家。
 そこへたどりついて、戸をホトホトと叩きました。
 荒原にざわざわと風が吹き、草も、木の葉も、一様に裏を返したのはその時。
 締めきった戸を、外からホトホトと叩かれた時、まず鉄砲を持った主《あるじ》が、ワナワナと慄《ふる》え出してしまいました。
 この鉄砲というのが、慶長以後、島原の遠征に一度参加して帰ったという履歴附きの代物《しろもの》で、最近においては、塩尻附近の猪追《ししお》いに持ち出して成功した記録があるので、主も自信のある品にはなっていましたが、この時は、どうしても目当《めあて》がつかないのみならず、五体が上下に動き出して、その鉄砲を支えられないという有様です。
 得物《えもの》得物《えもの》を持った駕籠屋《かごや》と馬方は、土のようになって、ヘタヘタと土下座をきってしまいました。
「久助どの、久助どの」
 外では、続いてホトホトと戸を叩き、低い声で人の名まで呼んだのですが、こちらの守備兵の耳ががんがん[#「がんがん」に傍点]と鳴り出して、それを聞き取れなかったと見えま
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