《べに》をぼかした頬。
片手にギターを持って、まず長次郎と見合い、にっこりと会釈《えしゃく》をする。長次郎はその傍へ行って、これも早口で話をしていると、一方から日本娘の美しいのが一人、三味線を持って出て来る。以前、張幕の下でハーモニカを吹いていた少年連がゾロゾロとやって来ると、西洋婦人は手にしていたギターを取り上げて、調子を合せにかかろうとする。長次郎は、そこを去って、また裏口の方へ向い、
「太夫元は来ないかな」
二
この興行が、いよいよ初日《しょにち》の蓋《ふた》をあけた日、人気は予想の如く、早朝から木戸口へ突っかける人は潮《うしお》の如く、まもなく大入り満員となって、なお押寄せて来る客を謝絶《ことわ》るために、座方が総出で声を嗄《か》らしてあや[#「あや」に傍点]まっている光景は、物すごいばかりです。これは勧進元のお角として、当然すぎるほどの結果で、寧《むし》ろこうなければならないはずにはなっているが、やはりこの夥《おびただ》しい人気を見ると、商売気とは違った昂奮を感じながら、場の内外のすべてに気を配っている。
春日長次郎が、あらかじめ一座の成り立ちの口
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