ているのもあります」
「ございます、ちょうど、雨だれの簷《のき》を落ちる時のような同じ形が揃って、鍔《つば》の下から切尖まで、ずっと並んで、いかにもみごとでございます」
「あ、では五《ぐ》の目《め》乱《みだ》れになっているのだろう。それから、錵《にえ》と匂《にお》い、それは、あなたにはわかるまいが……銘があるとの話、その銘は何という名か覚えていますか」
「小さい時から聞いておりました、国広《くにひろ》の刀だそうでございます」
「国広……」
「はい」
「ただ、国広とだけか」
「ええ、国広の二字銘だとか、父が申しておりましたそうで」
「ああ、国広か」
 竜之助にかなりの深い感動を与えたものらしく、刀を二三度振り返してみて、
「国広にも新刀と古刀とあるが、これはそのいずれに属するか、相州の国広か、堀河の国広か」
とひとり打吟じて、
「多分、堀河の国広だろう、ああ、いい物を手に入れた」
 彼の蒼白《あおじろ》い面《かお》の色が、みるみる真珠の色に変ってゆくと、
「堀河の国広というのは、よい刀ですか」
「新刀第一だ」
 その真珠色の面が刀の光とうつり合って、どこかに隠れていた血汐《ちしお》が、音
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