法隆寺の夢殿《ゆめどの》で
浮世烏《うきよがらす》が
こう鳴いた
おっしゃらしゃらしゃら
しゃあらしゃら
斑鳩《いかるが》の陣太鼓
おしとど、おしとど
追いこんで
おっしゃらしゃらしゃら
しゃあらしゃら
生れた奴は罰当《ばちあた》り
明日《あした》死んではかわいそう
かわいそうだが若緑
おっしゃらしゃらしゃら
しゃあらしゃら
天朝様も米の飯
おいらの方でも米の飯
狼様はドコへ行った
滝の上の三船山
おっしゃらしゃらしゃら
しゃあらしゃら
カマキリ三枚
飛び飛んで
夕張丘《ゆうばりおか》へ蟇《がま》が出た
葛城山《かつらぎやま》へ虹《にじ》が出た
三枚草履がホーイホイ
おっしゃらしゃらしゃら
しゃあらしゃら
飛鳥《あすか》の山では火が燃える
おっしゃらしゃらしゃら
しゃあらしゃら
[#ここで字下げ終わり]
その晩、清澄の茂太郎は寺の庭へ出て、ささら[#「ささら」に傍点]をすりながら器量いっぱいの声で歌い出すと、弁信が、
「茂ちゃん、もうお月様が出ましたか」
「いいえ」
「お星様は」
「まだ」
と答えた茂太郎は、
[#ここから2字下げ]
くらがり峠で日が暮れた
ようどう峠で夜が明けた
おっしゃらしゃらしゃら
しゃあらしゃら
[#ここで字下げ終わり]
暗い中で、ささら[#「ささら」に傍点]をすって器量いっぱいに歌をつづけましたが、興に乗じたと見えて、ついに無我夢中でおどりだしました。
底本:「大菩薩峠7」ちくま文庫、筑摩書房
1996(平成8)年3月21日第1刷発行
2003(平成15)年4月20日第2刷発行
底本の親本:「大菩薩峠 四」筑摩書房
1976(昭和51)年6月20日初版発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:大野晋、門田裕志、富田倫生
校正:原田頌子
2004年1月8日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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