たんでございますからなあ」
 何をか言いわけをしようとするのを、山崎は許すまじき色で手首を持って引き寄せました。
 がんりき[#「がんりき」に傍点]の百蔵も、この人にとっつかまっては弱りきっているのを、山崎はグングンと引張って、
「がんりき[#「がんりき」に傍点]、貴様はこの間、南条なにがしの案内をして相模野街道を南へ歩いていたそうだが、あれはどこへ行ったのだ」
「白状してしまいますから、どうか、そう強く手を引張らないようにしていただきたいものです、片一方しかないがんりき[#「がんりき」に傍点]の手がもげ[#「もげ」に傍点]てしまうと、かけ[#「かけ」に傍点]がえがねえんでございます」
 がんりき[#「がんりき」に傍点]の痛そうな面《かお》を見て、山崎は引張っていた手をゆるめて、
「うむ、素直《すなお》に言ってしまえよ」
「素直に申し上げるまでもございません、あれは、たあいのねえことなんです、ほんの道連れになっただけのものでございます」
「まだトボけているな」
「お待ち下さい、私の方ではたあいのないことなんですが、先方様の思惑《おもわく》のところはわかりません、ただちょっとした縁で道づれになって、その道筋の案内を少しばかりして上げたようなものでございます」
「その案内の道筋というのは、どっちの方角だった」
「それは……その、八王子から平塚街道を厚木の方へ出る道をたずねられたものですから、その案内をして上げました」
「いや、そうではあるまい、貴様は南条なにがしの手引をして、荻野山中《おぎのやまなか》の大久保長門守の城下へ入り込んだのだろう」
「ええ、それは違います」
「違うはずはない、白《しら》を切ると承知せんぞ」
「違います、あの方は果して厚木へおいでになったか、それとも荻野山中の大久保様の御城下とやらへおいでになったか、そのことは一向存じませんが、かく申すがんりき[#「がんりき」に傍点]は途中からお暇乞《いとまご》いをして、八王子へ出て参ったに相違ございません」
「がんりき[#「がんりき」に傍点]、貴様は、南条、五十嵐の一味が容易ならぬ陰謀を企てていることを知って彼等に加担《かたん》しているのか、知らずして働いているのか」
「どう致しまして、あの先生方が、どういう大望を企てて、どういう陰謀をめぐらしているのだか、私共にはそんなことはわかりません、出たとこ勝負で、頼
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