するばかりの踊りの歌と、足拍子を聞きながら、馬の手綱を引っぱっている茂太郎に、馬上から問いかけました。
その時、茂太郎は、もう口笛をやめておりました。最初は、いつも茂太郎の口笛から音頭が始まるのだが、こう酣《たけな》わになってしまうと、茂太郎は頃を見計らって、口笛をやめて、足踏みだけをして、群集をながめているのです。
「弁信さん、どうなるんだか、わたしにもわからないのよ、最初のうちは、わたしの口笛でみんなが集まったけれど、今となっては、わたしがみんなの踊りに引摺られているようなんだもの。もし、わたしが口笛を吹かなかったり、音頭を取らなかったりすれば、きっとみんなの人が、わたしを殺してしまうだろうと思ってよ」
茂太郎は足拍子を止めないで、弁信を見上げました。
「毎晩毎晩、倍ぐらいずつ人が殖《ふ》えてきますね、一昨夜の晩五百人あったものなら、昨晩は千人になっていました、明日の晩は三千人の人が集まるかも知れません。小金ケ原は広いから幾ら人が集まってもかまわないけれど、留守居をしている者から、きっと苦情が出ますよ、娘を持っている母親や、息子を踊らせておく父親や、留守を預かっている年寄たちが
前へ
次へ
全187ページ中68ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング