……」
 山崎は煙草を一ぷくしてから、お茶を取って飲みました。
 こうして、また二人が奥歯に物のはさまったような会談ぶりをつづけようとする時分に、廊下を逃げるように立去った宇津木兵馬は、お松の部屋の前に来て立っています。ここへ立寄るつもりで来たのではないが、ここへ来なければならないようになったらしい。
 相生町の老女の家を辞して出でた山崎譲は、両国橋を渡りながら腕を組んで、独合点《ひとりがてん》をして相生町の方を振返りました。
「ははあ、万事読めたわい、南条の奴が、宇津木兵馬をそそのかしてやらせたんだ、道理で小腕ながら、やに[#「やに」に傍点]っこい斬り方ではないと思った。しかし、宇津木があすこにいたということも意外だが、あの先生が南条に頼まれたからとて、余人ならぬ拙者に斬ってかかるというのはわからない、宇津木もおれも、壬生《みぶ》にいては一つ釜の飯を食った仲じゃないか、それに何を間違っておれに刃《やいば》を向けるのだろう、わからんな。ことによってあの先生、南条あたりに説かれて、我々に裏切りをするつもりでやったとすれば憎むべしだ、生意気な奴だ、打捨《うっちゃ》ってはおけないが、我々を敵
前へ 次へ
全187ページ中41ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング