、この槍はちゃんと返してやった上に、おいらが身代りになって、牢ん中へブチ込まれようとも、見ているところで首をちょんぎられようとも不足は言わねえ、誰でもいいから話のわかる人を出して、しっかりと挨拶をしてくれ、それからついでに、お握飯《むすび》に沢庵《たくあん》をつけて三つ四つ差入れてもらいてえ」
 聞いている者がその言い分の不敵なのに呆《あき》れ返りました。呆れ返りながらも、聞いてみると幾分の道理がないでもない。ことに最後に握飯《むすび》を差入れろということは、かなり虫のいい注文だと思いました。しかし腹が減っているだろうから、それも無理のない注文だと同情する者もありました。
 この事件はついに、泰叡山《たいえいざん》の方丈《ほうじょう》を煩わして、解決をつけることになったのは幸いです。
 槍の主も、こうなっては事を好まないらしい。米友の言うような条件で、建具屋の平吉を許してやる代りに、米友が縛られることになりました。その証人は泰叡山の方丈です。十文字の槍は元の主へかえって、米友は縄をかけられて、名主の家へ預けられました。
 それでこの事件の当座の解決は出来たが、後難があるといえばその後難
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