妙にハニカンでいると道庵は、
「薬のことは薬で、たしかに承知致したが、お前に少々物の言い方を教えてやるから、もう少し前へ出ておいで」
なんでもないことですけれども、そういうことが気味が悪いから米友は、あまり道庵の家へ寄りつきません。道庵を恩人だとも思い、医術にかけてはエライところのある先生だと信じてはいながらも、米友が道庵に懐《なつ》かないのは、いつもこうして米友を苦しがらせては喜ぶといったような、人の悪いところがあるからです。
「お前、今、なんと言った、目黒から出て来たが、近所に医者もないではないが、素姓の知れたのがいいから、それでこの道庵まで尋ねて来たと、こう言ったね、お前とおれの仲だからそれでもいいけれども、ほかのお医者様の前へ行って、そんなことを言おうものなら、ハリ倒されるよ」
「そりゃどういうわけだろう」
米友自身では、誰に向ってもハリ倒されるようなことを言った覚えはないのです。ここの先生に向って言い得べきことは、よその先生に向っても言い得ないはずはないと思いました。また、人によって言を二三にするような米友じゃあねえ、と腹の中は不平でしたが、道庵に向っては、口に出して啖呵《たんか》を切るわけにはゆきません。
「どういうわけということはなかろうじゃねえか、よく考えてみな、お前は目黒から来たと言ったろう、目黒はそれ、筍《たけのこ》の名所だろう、筍はお前、どこへ生えると思う」
「そりゃ先生、筍は竹藪《たけやぶ》の中へ生えるにきまってらあな」
「それ見ろ、つまり目黒は藪の名所だろう、その藪の中から出て来たくせに、近所に医者もあるにはあるがとは、道庵に対して随分失礼な言い分じゃねえか、いやにあてっこする[#「あてっこする」に傍点]じゃねえか、その位なら何も最初から、先生、わたしもこのごろ目黒におりまして、近所に藪もあるにはありますが、同じ藪でも長者町の藪の方が気心が知れて安心だから、それで、わざわざやって参りましたと、ナゼ素直に言わねえのだ、それをいやに、遠廻しに、近所に医者もあるにはあるが、わざわざ来てやったと恩に着せるように言われるのが癪だあな、おたがいにこう言った気性だから、物を言うにも歯に衣《きぬ》を着せねえようにして交際《つきあ》おうじゃねえか」
実にくだらないこじつけ[#「こじつけ」に傍点]です。あんまりな言いがかりです。それを真面《まとも》に受け
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