先生方なんだから、長くその手先になって働いてみたところが、ばかばかしいくらいのもんだ。だから兄貴、ここいらで見切りをつけて、二人が馴れ合って、こいつを坊主持ちということにして、江戸へのし[#「のし」に傍点]てしまおうじゃねえか。江戸へ持って行って、こいつをうまく売り飛ばしゃあ、五百や千両の小遣《こづかい》にはありつける代物《しろもの》だ、あんな人たちに附いて謀叛の加勢をするよりは、この方が、よっぽど割だぜ」
南条、五十嵐らの志士は、甲府城を乗っ取って大事を起さんとし、山崎譲はまた彼等の陰謀の裏を掻いて、根を覆えそうとしている間に、おのおの、その一方の手引をして来た七兵衛、がんりき[#「がんりき」に傍点]の両盗は、その方は抛り出して、伯耆の安綱を持って、これから江戸へ飛び出そうという妥協が成立してしまいました。
二人は、この名刀を坊主持ちにして、例の甲州街道を、都合よく縫って通ります。二人の足を以てすれば、ほとんど瞬く間に江戸へ飛んでしまうのだが、その途中どう道を枉《ま》げたものか、その翌朝、二人の姿を高尾山の峰の上で発見するようになりました。
二人は高尾山上の薬王院へ参詣しようと
前へ
次へ
全221ページ中68ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング