りませんか、本当の名は米友さんとおっしゃるのでしょう、内密《ないしょ》のお話があるのですからあけて下さい」
外では存外、落着いた声でこう言いました。よし、ここまで来れば仕方がない、まかり間違ったら二三人は叩き倒して逃げてやろうと米友は、足場と逃げ路を見つくろっておいて、例の手槍を拾い上げ、片手でガラリと雨戸を押し開きました。
「誰だい」
「わたくしでございます」
「お前さん一人か」
「エエ、一人でございます、御免下さいまし」
その女は、男のような風をして、お高祖頭巾《こそずきん》をすっぽりと被《かぶ》っておりました。
いったい、なんにしても人の家へ上るのに、頭巾を取らないで上るというはずはありません。
女は、このまま失礼と断わったものの、座敷へ通っても、やはり頭巾を取ろうとはしないで、
「お前さんが、米友さん?」
こう言って、かなり鷹揚《おうよう》な態度でありました。
「そうだよ」
米友は、極めて無愛想に返事をしました。
「お前さんの噂は、お君から聞いておりました」
お君、お君、と自分の家来でも呼び棄てるように言うのが心外でした。それよりもお君の友達だから、やはり自分も家
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