から、戸の桟《さん》へ手をかけながらも、外なる女の声を、じっと耳に留めていたのだが、それは、お君の声でもなければ、お松の声でもありません。さりとて鐘撞堂新道にいるお蝶の声とも思われないし、無論、両国にいる女軽業の親方のお角の声とは聞き取れないから、米友は迷っているのです。
「あの、お君のところから聞いて参りました、そうしてムクにそこまで案内してもらいました」
「エ、お君のところで聞いたって!」
 お君と言い、ムク犬と言うことは、米友の信用を高めるのに充分でありましたけれど、しかもお君と呼棄てにするこの女の正体は、更にわからないものであります。しかし、ここまで来た以上は、あけてやらないのも卑怯《ひきょう》であると米友は思いました。どうかするとその筋の目付《めつけ》が女を使用して、人の罪跡を探らせることがある。もしそうだとすれば、自分は本来、さまで暗いところはないのだが、一緒にいる先生は、決して明るい世界の人とは言えない。だから、戸を開く途端に「御用」という声が剣呑《けんのん》ではある。あけてよいものか、悪いものか、それでもまだ米友は、暫し途方に暮れていると、
「あなたがその友造さんじゃあ
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